大判例

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東京高等裁判所 昭和26年(う)2080号 判決

(一)、本件起訴状中公訴事実の冒頭に「且被告人三名(被告人及び原審相被告人堀節子、同安錦沫を指す)は孰れも麻薬中毒患者にして」との記載のあることは所論のとおりである。そして、被告人に対する訴因が塩酸ヂアセチルモルヒネ(ヘロイン)の譲渡及び所持すなわち麻薬取締法第四条第三号違反の点であることは後に述べるとおりであるから、右の記載事項は起訴にかかる犯罪の構成要件には属しないことがらであつて、この点は起訴状としてはいわば無用の記載であると見なければならない。論旨は右のごとき記載は刑事訴訟法第二五六条第六項の規定に違反するものであると主張をする。しかしながら、右の規定は、従来のように起訴状に検察官側の証拠を添附して裁判所に提出することが公判審理前に裁判官をして事件につき予断を生ぜしめる虞のあるところから、いわゆる起訴状一本主義の建前をとり、かかる資料の事前提出を禁ずる趣旨に出たものであるから、同項中「又はその内容を引用してはならない」とあるのは、その前段に規定された「裁判官に事件につき予断を生ぜしめる虞のある書類その他の物」の添附を同等又はこれに近い効果を生ずる程度の引用を禁ずる趣旨のものであると解するのを相当とする。しかるに、本件起訴状中の右の記載は、無用のことであり、新刑事訴訟法の精神からいえばむしろ不適当だということはできても、いまだ前記条項に違反する程度のものであるというには足りないから、この点において公訴提起の手続の無効を主張する論旨は理由がない。

(二)、本件起訴状に罰条として麻薬取締法第四条同第五十七条と記載されていること、そして右麻薬取締法第四条には第一号から第四号まであつてその各号に対する違反がそれぞれ構成要件を異にする別個の犯罪と考えられることは所論のとおりである。従つて右のごとくその第何号にあたるかを明らかにしないで単に第四条とだけ記載したのは、正確にいえば罰条の記載として不十分であるといわなければならない。しかし、起訴状は罰条の記載が要求されているのは公訴事実と相まつて訴因を明確ならしめるためであるところ、本件起訴状では公訴事実の記載と右罰条の記載とを対照すれば、被告人に対する訴因が塩酸ヂアセチルモルヒネの譲渡及び所持すなわち同法第四条第三号違反のそれであつて、同条第一号第二号又は第四号違反のそれでないことは一見明瞭であるから右の罰条の記載の不備は被告人の防禦になんら不利益を生ずるものとはいえず、公訴提起の効力に影響あるものとは考えられない。よつてこの点の論旨もまた理由がない。

論旨第二点について。

(二)、被告人に対する本件公訴事実の(一)は「被告人は昭和二十五年八月二十七日午後五時頃掲記自宅(東京都新宿区百人町三丁目二百七十四番地片岡一郎方)において堀節子に対しヘロイン(塩酸ヂアセチルモルヒネ)約〇、二五瓦位(のち原審第五回公判期日において約〇、五瓦位と変更された)を代金千四百八十円で譲渡した」というのであつて、罰条としては麻薬取締法第四条第五七条が掲げられているのに対し、原判決がこれを「被告人は麻薬取扱者でないにも拘らず昭和二十五年八月二十七日午後五時頃前記自宅において堀節子に対し阿片系アルカロイドの反応を検出する麻薬約〇、五瓦を代金千四百八十円で譲渡した。」と認定し(原判示第一の(二))同法第三条第一項第五七条を適用していることは所論のとおりである。すなわち本件では「塩酸ヂアセチルモルヒネ約〇、五瓦」との起訴に対して「阿片系アルカロイドの反応を検出する麻薬約〇、五瓦」との認定がなされているのである。そこで、前者を譲渡したということと後者を譲渡したということでは訴因が同一であるかどうかを考えるのに、麻薬取締法では「ヂアセチルモルヒネ及びその塩類並びにこれらを含有する一切のもの」に対するのとその他の麻薬に対するのとではその法的取扱を異にし、その譲渡についていえば 前者の譲渡は何人についても絶対に禁ぜられている(第四条第三号)のに反し、後者は麻薬取扱者以外の者がこれを譲渡することが禁止されている(第三条第一項)という相違があるのであつて、その禁止に対する違反は、行為の態様からいえばともに麻薬の譲渡にほかならず、またひとしく同法第五七条第一項によつて同一の法定刑をもつて処罰されるのではあるけれども、前者の譲渡と後者の譲渡とでは、その構成要件を異にし、訴因として別個のものになるといわなければならない。この点は、同一構成要件の範囲内で目的物の性質数量等に多少の相違を生ずる場合とは全く趣を異にするのである。のみならず、本件の場合のように、第四条第三号の違反であるとして起訴された者に対し訴因変更の手続を経ることなく、第三条第一項違反の事実を認定するときは、理論上は被告人側としてもその要件の差異の一つである麻薬取扱者なりや否の点について防禦の機会を失することにもなり、いわば不当な不意打を加えられる結果となるのであるから、かかる場合には訴因及び罰条の変更を必要とすると解すべきである。しかるに一件記録を調査してもこの点について訴因罰条の変更がなされた形跡は存在しないから、結局原裁判所はこの部分については審判の請求を受けた事件について判決をせず、審判の請求を受けない事件について判決をした違法を犯したものというべきであつて、論旨はこの点において理由がある。

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